大判例

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福岡高等裁判所 昭和58年(ネ)182号 判決

控訴人

アポロ商事株式会社

右代表者

林和雄

控訴人

加藤タケ

控訴人

小野和雄

控訴人

佐藤チエノ

右四名訴訟代理人

廣石郁麿

被控訴人

宗教法人観音寺

右代表者代表役員

鳥越康道

右訴訟代理人

山本草平

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、別府市亀川四の湯町一二五七番八地上に存する通路の旧国道入口に設置した杭一本(高さ約二メートル、原判決別紙図面(一)―以下原判決別紙図面(一)、(二)を図面(一)、(二)ともいう―記載の赤枠部分、以下本件杭ともいう)を撤去せよ。

3  被控訴人は、右一二五七番八、右同所一二五六番一、同番三の各土地上に存する通路(幅約二メートル、長さ約五四メートル、図面(一)記載の青線二本に狭まれた部分―以下本件通路ともいう)に、控訴人らとその家族の通行の妨害となるいかなる設備も設置してはならない。

4  被控訴人は控訴人ら各自に対し、昭和五四年一一月六日から右2項の杭が撤去されるまで一日金一〇〇円の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨〈以下、省略〉

理由

一被控訴人が、一二五六番一宅地1362.44平方メートル、同番三宅地96.03平方メートル、一二五七番八宅地586.82平方メートルを所有していること、控訴人加藤、同小野、同佐藤がそれぞれ被控訴人から賃借した土地上に建物を所有していること、控訴人アポロ商事が控訴人ら主張の土地の所有権を有すること、被控訴人が大正時代に本件通路を設置したことはいずれも当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、控訴人らが被控訴人から賃借して建物を有している土地は、控訴人加藤が一二五六番一、同番三の各一部、控訴人小野及び同佐藤が一二五六番一の一部であること、一二五六番一、同番三、一二五七番八の各土地及び周辺土地と控訴人加藤、同小野、同佐藤の各所有建物(その敷地)、本件通路、旧国道との位置及び形状は図面(一)、(二)のとおりであること、本件通路の状況は、被控訴人所有の右三筆の土地にまたがり開設された未舗装の被控訴人の私道であり、その長さは約56.9メートルで、ほぼ東西の方向に直線に走り、東端は最寄りの公道である旧国道に、西端は三差路に接している、西端の三差路から更に西方への道は程なく行き止まり、北方と南方への道はいずれも旧国道への迂回路になつているが、その幅員は三差路付近で約一メートルであり、そもそも自動車による通行は不可能である、本件通路の両側は、一部に空地もあるが、被控訴人の借地人らの家屋が建ち並び、東端の通路出入口から一〇数メートルの間は、ブロツク塀と建物に狭まれて、通路の幅員は狭い所で1.77メートル、広い所で1.89メートルであることがそれぞれ認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかして、右に認定した各事実からすれば、控訴人アポロ商事の一二五七番六の土地から公道(旧国道)に通ずる道路としては本件通路が唯一のものであり、同土地は袋地にあたるといえるから、右認定の諸般の事情に鑑みれば、同被控訴人は本件通路につき民法二一〇条に基く囲繞地通行権を有すると認めるのが相当である。その余の控訴人らの本件通路の使用関係は、あらかじめその所有地内に通ずる通路を開設した上で、これに面するが公路には面しない土地部分を賃貸した土地所有者と、その借地人との間の、賃貸借契約の一部又はその付帯の契約による通路使用関係にほかならないことが弁論の全趣旨から明らかであつて、もともと民法二一〇条の囲繞地通行権の規定の適用のある場合ではないというべきである。ただ、かかる場合においても使用関係の内容は、控訴人アポロ商事の囲繞地通行権の内容と結局は同一のものとなると解されるから、同控訴人以外の控訴人らの本訴請求についても、その請求が契約に基く本件通路の使用権の主張も含むものとして、以下一括してこれを判断することとする。(従つて以下の判断は、かりに控訴人アポロ商事以外の控訴人らの通行権が民法二一〇条に基くものと認められる場合においても同様となる。)

二被控訴人が控訴人らの本件通路への自動車乗入れを防止する目的で本件杭を設置し、もつて控訴人らの本件通路の自動車による通行権を不可能にしたことは当事者間に争いがない。

そこで、控訴人らの本件通路の囲繞地通行権(控訴人アポロ商事以外の控訴人らについては契約上の通行権、以下同様とする。)が自動車による通行を含むものであるか否かについて検討する。

一般的に、囲繞地通行権が徒歩による通行に止まらず、自動車による通行を含むか否かについては、袋地及び囲繞地の用法、位置、形状、通路の位置、形状並びに従来の利用状況、自動車の通行による安全阻害の有無等諸般の事情を基礎としてこれを決すべきであると考えられるので、以下これを本件について考慮する。

本件袋地、周辺土地(囲繞地)、本件通路の各位置及び形状は前記認定のとおりであり、〈証拠〉によれば、被控訴人から、控訴人加藤は本件通路沿いの土地である一二五六番一、三の一部を、控訴人小野は右一二五六番一の一部をそれぞれ昭和一〇年代に父の代から居住用の建物所有の目的で賃借し、また控訴人佐藤は控訴人小野の右借地の南隣りで同一地番の土地の一部を昭和四五、六年ころから同じく居住用の建物所有の目的で賃借し、以来本件通路を通行していること(但し、控訴人加藤は現在右建物に居住せず、本件通路を時折利用するだけとなつている)、控訴人アポロ商事は、被控訴人から一二五七番六の土地を譲受けた笹野正己から昭和四八年八月三一日に同土地を譲受けたものであるが、笹野及び同控訴人はいずれも同土地を購入する際被控訴人から本件通路の幅員が狭いことから自動車の利用も制限せざるを得ず、建物建築も不能である旨の説明を受けたこと、本件通路は、かねて借地人や付近住民の利用に解放されたいわゆる勝手道として利用されていたものであつたが、昭和四〇年代に入り不特定の自動車が本件通路に出入りするようになり、その後控訴人アポロ商事の営業車等や控訴人加藤、同小野、同佐藤らの自動車も本件通路を通行するようになつたところ、一方では本件通路は被控訴人所有地の借地人である約一七軒の付近住民をはじめ本件通路の北側地区から旧国道の南側に存する小学校に通学する児童、本件通路の南側地区から同通路の北側に存する中学校に通学する児童らによつてもかなり頻繁に利用されるようになつてきていること、それにもかゝわらず本件通路は前記のとおり幅員が狭く、とりわけ東端の通路出入口から西側一〇数メートルの間は自動車一台がやつと通れる位で、自動車と歩行者との離合も十分にできない状況にあり、自転車や歩行者と自動車との接触事故も数件発生し、また自動車の通行により本件通路下の土中に埋設された下水管や本件通路沿いのブロツク塀が壊される事故も発生し、自動車の通行量が増えるにつれて、借地人や付近の住民から、自動車が本件通路を通行すると歩行者に不便だ、子供や年寄りの歩行が危険だ、下水管やブロツク塀が壊されるなどの苦情が被控訴人に持ち込まれるようになつたこと、そのため、被控訴人としても対応に迫られて、昭和五四年一月ころ何度か通路出入口に自動車の通行禁止の立札をしたが、その都度立札が壊されたり無くなつたりしたこと、被控訴人は、同年四、五月ころ、本件通路の両側に住む借地人らの強い要請を受け、本件通路の東側部分の幅員を拡げ、通路沿いに駐車場を作る計画を立てたが、その計画も予定地の明渡が得られないまゝ頓挫してしまい、同年七月九日、控訴人ら(ただしアポロ商事を除く。)を含む借地人との話し合いの席で、本件通路の自動車による通行を遠慮する旨の大方の了解を得たうえ、同年八月一日ころ、再度東端の通路出入口に本件杭を設置するに至つたこと、従前本件通路に自動車を乗り入れていた借地人のうち、控訴人ら以外の者は、以後乗り入れを止めていること、以上の事実が認められ、〈証拠判断略〉。

しかして、以上認定した各事実、殊に、控訴人加藤、同小野、同佐藤の袋地利用目的(居住用の建物所有目的)、控訴人アポロ商事が土地を購入した際の被控訴人の説明、本件通路の従来の利用状況最近における自動車の普及状態(誰しも自動車を所有し又は利用することを便宜とし、且つそのことに多くの困難はないから、本件通路を利用する一七人の借地人の本件通路への自動車(自家用には限られない)の乗り入れは、衡平上、全員に許されるか全員に禁じられるかのいずれかにならざるを得ない。)、本件通路の形状と自動車通行の際の危険性、本件杭が設置されるに至つた経緯等を総合して判断すれば、控訴人らの本件通路の囲繞地通行権には自動車による通行は含まれないとみるのが相当である。

しからば、右判断と異なり右囲繞地通行権に自動車による通行を含むことを前提として本件杭の撤去等を求める控訴人らの本訴請求は、いずれも理由がないというべきである(なお、控訴の趣旨第三項の請求部分は、徒歩による通行妨害予防の趣旨も含むものであるが、弁論の全趣旨から被控訴人において控訴人らの徒歩による通行までも阻止する意図があるとは到底窺えないから、妨害予防の要件を欠き、結局同請求部分は全部理由がないこととなる。)。

三権利濫用について

被控訴人は控訴人らが本件通路付近に存する被控訴人所有の有料駐車場を利用するのを余儀なくさせるため本件杭を設置したとの控訴人らの主張に副う〈証拠は〉到底措信できず、他に本件杭の設置が権利濫用に該当するとの控訴人らの主張に副う事実を認めるに足りる証拠はない。

従つて、被控訴人の本件杭の設置が権利濫用に該当することを前提として本件杭の撤去等を求める控訴人らの本訴請求も理由がないといわなければならない(控訴の趣旨第三項についても前同様である。)。

四以上のとおりであるから、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものであり、これと趣旨を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がない。

よつて、本件各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(蓑田速夫 金澤英一 吉村俊一)

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